JOURNAL / 2026.08.08

後継を名乗る気はない。
あるのはリスペクトだけだ。

『侍道』シリーズについて書きます。初代から『侍道外伝 KATANAKAMI』まで全部やりました。年代がバレますね。


01 — 大作ではなかった。ただ、先を行っていた

あのシリーズは、いわゆる AAA タイトルではありませんでした。予算も規模もそちら側ではない。それでも、いま思い返すとある方向では明確に時代の先を行っていたと思っています。

一番はっきりしているのは「主要人物を、いつでも自分の判断で斬れる」という一点です。物語の中心にいる人物を、話の途中で斬ってしまえる。斬ればその人物にまつわる筋はそこで消える。取り返しがつかない。ゲームがそれを止めてこない。

そして、その自由と噛み合っていたのが土下座・抜刀・峰打ちといった行動が、そのままフラグとして箱庭の中で緻密に分岐していく構造でした。選択肢のウィンドウが出てくるのではなく、その場でどう振る舞ったかが結果になる。頭を下げるか、刀を抜くか、抜いた上で峰で打つか。プレイヤーの態度が、そのまま入力になっていました。

キャラクターも、全員どこかしら癖がありました。まっすぐ善人でも、分かりやすい悪人でもない。作り手が「こういう人、いるよね」と思って置いたであろう人物が、勢力の中に何人もいる。

それからキャラクターの強さが、刀にしか宿っていなかったこと。レベルという概念で主人公が強くなるのではなく、どの刀を持っているかで戦い方が変わる。刀を失えば元通り弱くなる。「侍が強いのではなく、刀が強い」という考え方が、パラメータの設計にそのまま出ていました。

02 — バカゲーでありながら、締めるところは締めていた

あのシリーズの話をするとき、外せないのがこの二面性です。ふざけた武器が出てくるし、脱線した寄り道もいくらでもある。それでいて、締めるところは容赦なく締めてくる。

笑っていたはずの流れの先で、誰かが死んで、選んだ側の勢力が勝って、選ばなかった側の人間が消えている。ふざけた部分があったからこそ、締めた瞬間の温度差が刺さる。重い話を最初から最後まで重く語るより、よほど効きます。

シリーズの中には、正直、賛否の分かれた要素もありました。でもそれも含めて、「作った人の癖が見える」作品ばかりだったと思っています。丸く整えられていない。誰かが「これをやりたい」と思って入れたものが、そのままの形で残っている。近ごろのゲームでは、なかなか出会えない手触りです。

03 — いま、剣戟アクションはもう出揃っている

現在、侍や剣戟を扱ったアクションゲームは充実しています。『SEKIRO』が示したパリィ主体の設計があり、『仁王』シリーズがあり、『Rise of the Ronin』がある。どれも面白く、どれも作りが厚い。

この状況で、いまから侍のゲームを立ち上げて、あの並びに肉薄するにはどうするか。

アクションを突き詰める方向では、たぶん届きません。あちらは何年もかけて磨かれていて、体制の規模も違う。同じ土俵で「もっと気持ちいいパリィ」を目指しても、順位が一つ上がるかどうかの勝負になります。

だから答えはアクションの側には無いと考えています。侍道シリーズがやっていた方——自由に斬れること、振る舞いがそのまま分岐になること、勢力を選んだ結果が返ってくること——そちらに、まだ誰も座っていない席があるはずです。

04 — 実際に、設計判断として入っているもの

開発中の『陽炎-残光』にどう入っているか、具体的に書きます。「影響を受けました」で終わらせると、何も言っていないのと同じなので。

FROM THE SPEC

1. 峰打ちか、刃で斬るか。選択ウィンドウは出しません。
相手の体勢を崩したその瞬間に構えていたモードが、そのまま結果になります。決めるのは勝ったあとではなく、崩した瞬間です。仕様書には「侍道方式」と書いてあります。

2. 時計の進み方。
正典の該当節には、見出しにそのまま「侍道3 型」と書いてあります。街を歩いているあいだは進み、戦闘や会話では止まる。

3. 一度どこかに属したら、あとから寝返れない。
これは調査ではなく、プレイした記憶から入りました——「このあとは勢力を変えるような大裏切りはできなかった。あくまで結末の細部が変わるだけ」。その挙動をそのまま採っています。

4. 強いのは侍ではなく刀。
間合いも、見切りの受付フレームも、ガードの削られ方も、装備している刀が上書きします。これは仕様の話ではなく、すでにそう実装されています。

もうひとつ、先日決めたことがあります。物語の分岐点は、マップ上のアイコンとして置かれ、素通りできます。「今は行かない」を選べる。ただし素通りしても物語は勝手に進み、どこにも属さないまま終盤へ着きます。選ばないことも選択で、そこには結果が付きます。

05 — 借りなかったものについて

リスペクトと言いながら何でも持ってくるのは、たぶん違います。検討して、採らなかったものもあります。

たとえば、シリーズのある作品には「重い選択の対価として、キャラクターの命を払わせる」という仕組みがありました。強い演出です。ただ、これはうちでは採りませんでした。

理由は仕様書にこう書いてあります——命はどの作品にもある汎用の対価だから、この案は他所から借りられない。あの作品でそれが効いたのは、その作品が積み上げてきた文脈の上に置かれていたからで、形だけ持ってきても同じ重さにはなりません。

借りるべきは仕組みではなく、考え方の方だと思っています。

06 — 名乗らないことについて

後継を名乗る気はありません。精神的続編を名乗る気もありません。

あれは他社の作品で、他社の積み上げたものです。名乗った瞬間に、こちらの都合であちらの看板を借りることになります。それに、名乗ったところで、あのシリーズが持っていたものが自動的にこちらに宿るわけでもありません。

あるのは、少年時代を彩ってくれた愛すべきバカゲーへのリスペクトだけです。それ以上の何かを主張するつもりはありません。

07 — 何を体感してほしいか

『陽炎-残光』でも、刀を振る手応えはもちろん詰めます。パリィがあり、体勢を崩す駆け引きがあり、そこは1フレーム単位で測りながら作っています。

ただ、いちばん体感してほしいのはそこではありません。侍としてこの街をどう歩いたか、どこに与し、誰を斬り、誰を斬らずに済ませたか——その選択が返ってくる重さの方です。

言うまでもないことですが、多大な影響を受けた作品として、ここに挙げておきます。


『Project “Kagiroi-Zankou”(陽炎-残光)』は、真鍮の歯車と蒸気の煙が立ちこめる不夜城『汽京』を舞台にした、クォータービューの侍アクションRPGです。作品の詳細は作品ページに。
※ 本記事で言及した各作品は、それぞれの権利者に帰属します。当スタジオおよび本作は、それらの権利者と関係ありません。

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